恋をよぶ眼鏡

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 そして週末、私は久しぶりに一人で出かけることとなった。いつもより少し念入りに化粧をしてみたが、黒縁眼鏡をかけてみるとすべてをぶち壊されている気がした。  まあいいや。これでなにもなかったら、香奈もきっと諦めるだろう。  目的の家具屋さんは予想以上に私好みだった。温かみのある北欧風なデザインと、モダンスタイルが共存していて、見ているだけで胸が高鳴るような家具に溢れていた。  満足いくまで店内を見てまわり、私はその店を後にした。顔が自然とほころんでいるのが自分でもわかった。  このまま帰ろうか、とも思ったが、せっかくだから買い物をすることにした。家に帰ったらこのいい気分が消えてしまいそうで、もったいない気がしたのだ。  ちょうど新しい夏物の服が欲しかったし、今ならさっきの家具たちのように気に入る服に出会えるかもしれない。  昼に近い時間帯になり、通りには人が増えてきた。駅前をぶらぶら歩き、とりあえず適当な店に入った。  店内は様々な色に溢れていた。もう少し落ち着いた店に、と思ったときはすでに店員さんにがっちりとマークされていた。 「お客様!今お手に取られているシャツと、このスカート、とっても合うんですよ!」  正直、こういうのは苦手だ。ぐいぐい来られると尻込みしていまう。逃げ出すタイミングを計っていたところ、 「こちらなんてどうですか?今朝届いたばかりの新作なんです!この色、今年のトレンドカラーなんですよ」  それはラベンダーのワンピースだった。きれいな色だ、と思いそう口にすると、笑顔の店員さんに試着室に押し込まれた。 「お客様!とってもよくお似合いです!」  相変わらずハイテンションな声。そこにはお世辞以外も含まれているのが感じられた。そのワンピースは私にぴったりなサイズだった。シンプルな型は清楚な雰囲気で、なにより淡いラベンダーが私の肌色に合っていた。一目惚れだ。黒縁眼鏡の存在が意識から消えるほど、私は一瞬で夢中になった。 「これ、着て帰ります!」  ありがとうございました!と見送られ、私は上機嫌で歩き出した。
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