ボクはクライマーだった

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ボクはクライマーだった

 ニホンイシガメであるボクは登るのが得意だった。過去形になっているのはボクがもう若くない、という現実がそうさせる。  爪がかからないツルツルしたところに入れられたらなかなか脱出は難しいけれど、ザルのようだったり、ダンボール箱のような紙でできていたりしたら、どんなに深くても脱出可能だ。うっかり落ちて裏返しになったとしても僕たち水棲ガメは首を伸ばして地面を押してあっというまにひっくり返って起き上がって再挑戦。  ツルツルでもケースの高さが立って手を伸ばして爪をかけられればヒトが懸垂するように身体を持ち上げ、首を思いっきり前へのばす。足もつっぱり爪を壁にかけ、そして胸が乗れば、手をもっと前に出してつかまるところがあれば爪をかけ、徐々に体重移動、手を思い切り伸ばしてゆっくり下りる。身軽だった。  ななめのところなら楽勝だし、垂直でも問題なく登る。ちょうどテントウムシが上を目指すように。
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