ニホンイシガメのひとりごと

ボクはクライマーだった

　泳ぐのもまあまあ得意だ。と言っても、水場がそんなに大きくないし、深くない。部屋の中での泳ぎは上手である。１回お風呂で泳いだこともあったけど、どんな感じだったか覚えていない。
「今、前の用水を流れに逆らってアカミミ(Ｐ５ ※２)が泳いどったわ。壱とおんなじくらいの大きさの」
　約１.５ｍ幅の農業用水が家の前を流れていて、田んぼの季節だけは結構な量の水が勢いよく流れている。そうじゃない時は深さが10㎝もなかったりするらしい。
「いっちゃんには無理やわ～。溺れちゃうかも。とっても運がよければ流されて柵にひっかかって登れそうなら脱出できるかもしれんけど」
「ぜぇったい無理、あの勢いの水に入ったことないもん」
「温室育ちのいっちゃんには自然の川とか無理やよね～。ご飯もひとりで獲れんやろし」
　用水も川も知らないからわかんないけど、ボクは温室育ちではないよ。冬メッチャ冷たい水にいるし、ねえちゃんが面倒見るという前提なんだから、ボクが川で生きていけなくてもなんの問題もない、そうだよね？