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ですが……ああ、そこが愚かな女の浅ましさ。いえ、女という生き物の業とでも申しましょうか。隣の芝が青く見えるのは、人の性でありましょうか。
いつしか彦衛門様のその優しさ穏やかさを「退屈」だと、礼を逸せぬ態度を「冷淡」だと感じるようになっていった事。
夜毎に薄い壁の向こうから聞こえる激しい営みの音を羨ましく思い、淡白な夫に物足りなさを感じて、下腹に燃ゆる燠火を持て余すようになってしまった事。
あろう事かこの私は、自分が石女である事の責を、彦衛門様のお情けが浅いせいであるなどと、逆恨みしてさえいたのでございます。
そうして恐れ多くも夫への屈託を抱えた、満たされない女ふたり。歯車が狂ってしまうのは、そう先の事ではありませんでした。
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