三月後 浄土宗円尭寺尼僧月修 阿弥陀三尊像に対して

5/5
前へ
/13ページ
次へ
 ……ああ、お恥ずかしい事でございます。浅ましい限りにございます。  ですが全てが終わった今だからこそ、御仏にだけは私の罪をお聞き頂きたいのでございます。  そうです。私とお咲殿()は夫のある身でありながら、しかも女同士でありながら、理無(わりな)い仲となっていたのでございます。  彦衛門様がお咲殿を手篭めにしたなど、とんでもございません。お咲殿と姦通していたのはこの()なのでございます。  申し開きのしようもございません。全ての咎は私に返ります。  天網恢々疎にして漏らさずと申します通り、露見する日は余りにも早く、あっさりと訪れました。  永久に忘れる事はないでしょう。私とお咲殿が睦み合っている所に踏み込んだ、源之進様の鬼の如き形相。  濡れ手拭いをはたく(・・・)ような音。  畳の上を鞠のように転がった、お咲殿の引き攣った表情。  お咲殿の両肩の間にできた丸い断面からこぼれる赤い飛沫。  あれだけ気を配り、張り詰めて暮らしてきた殿方が、よりにもよって女に女房を寝取られるなど、ご心境のいかばかりかは余人の想像の及ぶ所ではありません。それでも、源之進様が既に死ぬ気でおられる事だけは判りました。  これほどの恥辱を受けて、おめおめと生きていられようか。妻と間女(・・)を罰した後は、幼い源一郎を刺し、自分も腹を切る。  そうお考えになっている事が、それほどのお覚悟をするに至った怒りと悲しみが伝わってくるだけに、私も凍りついたように指一本動かせませんでした。ただ正義の刃が己の(くび)にも下りてくるのを、ただじっと待つだけでございます。  その時でした。彦衛門様が駆けつけ、一刀のもとに私を救って下さったのは。  そして、ああ……何たる武士の鑑でしょう。私とお咲殿と源之進様、三者全員の名を守るために、泥を被るお覚悟をなさったのです。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加