二月後 長田源一郎 主家に帰参後 同輩に対して

3/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 そして……おお、流石のご賢察。貴殿のお考えの通り、この「仇討ち」の仕来りも、同様のお仕置きとは思えぬかな。武士が主家を離れる事によって、その大名家そのものの力を削ぐ。それも仇討ちを志そうとするような、気骨ある士から率先して遠ざける事が出来る、と。しかも大部分は志半ばで力尽きるか、そも討つべき敵を見付け出せぬかで、帰参が叶わぬまま終わるのが常道で御座る。  いや、こう申し上げると、己が大功をひけらかすようで心苦しゅう御座るな。これではまるで、それにも関わらず仇討ちを遂げた拙者自身を自賛しているようでは御座らんか。これらの逆風を撥ね退けて見事に大望を果たした、稀有な例であるなどと。否々(いやいや)、偏に幸運と、周りの方々のご協力に支えられたお蔭に他ならぬとも。  それにしても、久保めも愚かな男に御座る。灯台下暗しとは申すが、よりによって隣国に潜む事もあるまい。櫓櫂(ろかい)の及ぶ限り、何処にでも逃げる(いとま)は有ったであろうに。  さらに事もあろうか名も変えず、寺子屋まで開いていたとあっては、もはや正気の沙汰では御座らんな。討手(うって)に見付けてくれと言うようなもの。近隣では随分と評判も高かったようであったが、そうして善人として口舌に上れば、同名の別人だと勘違いしてもらえるとでも期待しておったのか。それとも追われる身になっても、なお虚栄心を抑えられなんだのか。はたまた恐怖に耐えかね、半ば諦めておったのか。所詮は士道にも(もと)る犬畜生のする事。考えるだけ詮無き事に御座るが。     
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!