二月後 長田源一郎 主家に帰参後 同輩に対して

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 町奉行所に届出を出した後の事を考えると、久保めのそんな偽装も無駄ではなかったのやもしれぬな。ほれ、仇討ちが行われるとなれば、通常は助っ人なり支援者なりが集ってくるもので御座ろう。それがこの度の一件ではまるで逆。町奉行の通達に対して、異を唱える町人どもが引きも切らなかったのだとか。本当にあの久保なのか、人違いではないのか、と。それが狙いだったとすれば、久保めは余りにも浅墓(あさはか)であったと言えよう。  呵々。そのような小細工も、いざ立会いとなれば雲散霧消となり申した。何しろあの見苦しさよ。町人が無礼討ちに遭うとて、あれほどの無様は晒すまいぞ。  初めは久保に声援を送っておった町人どもも、久保が泣き叫んで逃げ隠れするごとにその数を減らしていきおってな。仕舞いには、町内が一丸となって怒号と罵声を久保に向けるような有様。そのうねりの中で拙者が久保に止めを刺した時には拍手喝采。さながら童話の鬼退治のような模様で御座った。  いやなに、お褒め頂くほどの事では御座らん。父母の無念を晴らす、それは武士として当然の務めであろう。殊更誇ろうとも思っておりませぬ。  それよりも父母が喜んで下さるとすれば、それ自体よりも、その後のお仕置きやもしれぬ。首尾良く仇討ちを遂げた事で、殿の下への帰参が叶った事。それどころかご近習に取り立てられ、分に余るご加増を頂いた事。  紆余曲折は有ったものの、我が長田家の栄達という一点だけ見れば、父の存命の頃とは比べ物にならぬ身代となった訳で……  呵々、「仇討ち様々」とは流石に不謹慎で口には出せぬがな。
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