4人が本棚に入れています
本棚に追加
僕がひとり、月を肴に晩酌を楽しんでいると、突如、けたたましいノックの音がして、行ってみると、親友が立っていた。
お互いに十年分の年をとっているはずだが、向きあってみると、昨日別れたばかりのような気がした。
「実は今日は、お前に頼みごとがあって来た」
親友は、久しぶりだなとも、こんばんはとも言わず、いきなりそう切り出した。
戸口で話すのも奇妙だ。
僕は彼を部屋に招き入れ、晩酌のグラスを、もう一人分追加した。
しかし彼は飲まなかった。僕が注いだ酒が見えもしないかのように、全く手をつける気配もない。
古ぼけたソファに座り、親友の目は爛々と輝いていた。
ちょうど、今夜の月のように。
「頼みごととは、なんだい」
酒を舐めながら、僕は尋ねた。
親友は、肩から提げた古い革のカバンから、ひとつ、缶詰を取り出した。ツナやら鯖やらが詰めてあるような、小さく平べったい、よくあるような缶詰だ。
ただ、何も書いていない、真っ黒な紙のラベルが巻いてあり、中身が何なのかは、一見しただけではわからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!