第1話

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 僕がひとり、月を肴に晩酌(ばんしゃく)を楽しんでいると、突如(とつじょ)、けたたましいノックの音がして、行ってみると、親友が立っていた。  お互いに十年分の年をとっているはずだが、向きあってみると、昨日別れたばかりのような気がした。 「実は今日は、お前に頼みごとがあって来た」  親友は、久しぶりだなとも、こんばんはとも言わず、いきなりそう切り出した。  戸口で話すのも奇妙だ。  僕は彼を部屋に招き入れ、晩酌(ばんしゃく)のグラスを、もう一人分追加した。  しかし彼は飲まなかった。僕が注いだ酒が見えもしないかのように、全く手をつける気配もない。  古ぼけたソファに座り、親友の目は爛々(らんらん)と輝いていた。  ちょうど、今夜の月のように。 「頼みごととは、なんだい」  酒を()めながら、僕は(たず)ねた。  親友は、肩から()げた古い革のカバンから、ひとつ、缶詰を取り出した。ツナやら(さば)やらが詰めてあるような、小さく平べったい、よくあるような缶詰だ。  ただ、何も書いていない、真っ黒な紙のラベルが巻いてあり、中身が何なのかは、一見しただけではわからなかった。     
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