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知っていますか皆様。
人間、処理しきれないことが身に起きるとですね、賢い脳みそが自分を守る為に無意識で判断をしてくれるそうですよ。
現実逃避ならぬ、ぶっ倒れるという方法で。
そんな脳みそ様のおかげか、気が付いたらわたしはですね、沈み込みそうなほどふかふかなベッドの上で寝ておりました。
心配そうにこちらを伺う傍らのコルゼさんのドアップが、目覚めたわたしに安堵の息を零す。渡されたコップの中の水を飲み干してボーっとすること数分。
彼女以外の人間が部屋に居ない事や、何やら気遣わしい視線がチラチラ向けられているところを見ると、おそらく彼女は、なぜわたしがこの状態になったかという顛末は知っているのでしょう。
丁度良かったです。
「……お父さんを呼んで下さい」
他の方々には内緒で、と付け加えたけれど、こちらの臣下の皆様は総じて王様思いなのは周知の事実である。なのでその前に、見つかる前に事を進めなければと思います。
顔面蒼白で部屋に飛び込んで来るお父さんに、人差し指を唇に寄せて今にも放たれそうな言葉を奪う。そしてコルゼさんには暫く2人きりにさせて欲しいとお願いして退出してもらいました。
「サエ? ……なぜ倒れたのだ」
「うっかり転んだだけですよ」
こちらの方々にはすっかりお父さんのヤバさがバレているのか、あの詳細を知らない事に安心する。誰かが漏らしてたら本気で彼の命が危ぶまれるところでした。さすが皆様です。
こっそりと褒めちぎりながら、お父さんの心配した、ケガはないか、痛いところはないかと、身体のあちこちをせわしなく動き回る手を掴んでやめさせる。
「身体は大丈夫ですけど他の部分が大丈夫じゃな……いや、いや、違いました。ご心配なく! ええもう全く正常なんですけれども! しかしというか、お父さんにしか頼めない事が出来ましてですね」
なんという百面相なのか。盛大にホッとした表情がいとも簡単に血の気を失いましたよ。誤魔化せたと思いたい。どっち? と判別しようとする目に畳み掛けるようにしてお願いお父さんを連呼すれば、やっと笑顔になりました。
「サエの頼みなら世界征服でも人類滅亡でも何でも叶えてやるぞ」
「そういう物騒な発想は無くしましょう」
では、この世の全ての金銀財宝はいらぬか? すぐに奪って来ると張り切り出すお父さん。ちょっぴり魅力的だと思ったのは無一文が長過ぎたからだと思います。
奪うのはダメ。絶対ダメ。せめて拾って来て欲し……ゴホン。
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