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衝撃を受け過ぎて心臓が痛い。
まだ信じられないが、考えてみたら彼がこんなところで馬の世話をしているはずもないし……
うん。やっぱりこの人は別人だ。別人。別人。
《 おい奴隷。おかわりだ 》
念仏のようにぶつぶつ唱え、見て思い出していた面影を消そうと努力していたから、ああおかわりですね、はいはい、と疑問も持たずにミルクを注ぎ足して戻ったところ、ハッと我に返った。
《 おかわりはいいとして、まだ言うか 》
《 言うに決まってる。事実だし。
お願いを聞いたら奴隷になるって言ってただろ 》
《 貴方に言った覚えはありませんよ 》
お願いの内容を口にしてもないし、そもそも手紙を何処へやったのだ。
《 ちゃんと届けてある。ちなみに返事はコレ 》
胸元から取り出した封筒を差し出され、ほのかに香るミントの匂いに、まさかですよね? 本当に?嘘でしょ? と、混乱のまま中身を開けた。
『 愛しい愛しいサエへ
君からラブレターが届いたということは、首尾よくこちらの手の者と接触が出来たようで何よりだ 』
えええ?!と、手紙ともさを二度見する。
戸惑いと驚愕に包まれながら、もさが顎で続きを読めと促してくるままに目を落とせば、
『手紙についた君の匂いで気を紛らわせている』だの、『サエのファーストキスの相手はあの夜の俺だ』だの、色々と色々と、小っ恥ずかしい内容と思わぬ事実が書いてあった。
そして最後に、
『情報を感謝する。だが、危険な真似だけはしないで欲しい。愛している』
と、締めくくられていた。
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