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ラウル様の纏う空気の質が一瞬で切り変わる。
鼻は確かに甘さを拾うのに、部屋に充満した重苦しい緊迫さがグラグラ揺れる脳の覚醒を促した。
……これはまさか、失言しましたかね?!
とりあえず訂正すべき箇所はしなきゃ思うように息も吸えません。
「さ、先ほどの話はおもにラウル様とわたしの行動について客観的に語ったことですよ。貴方の気持ちを疑っているというよりも、好かれる意味が分からないんです」
自分のしでかした数々の不敬な態度は、罰されることはあっても好きに転がる方がおかしいと思う。
意見の相違でワインもぶっかけたし……その場で斬り殺されても不思議じゃない暴挙です。
ラウル様はお茶目な人なんで冗談も軽口も言えますよね。そして王だからこそ、自分の信念を押し通す為に他者を恫喝したりもする。
相反する性質の感情は、恋愛においてもあるかもしれない。……お父さんのように。
だけど貴方は……変な邪推はするなとおっしゃいました。なので、自意識過剰ですみませんが敢えて聞きますよ。
「ラウル様はわたしのどこが好きなんですか?」
向き合うから。逃げないから。ちゃんと教えて下さい。
真っ直ぐに重なり合った視線がぶつかり合う。怖いけど逸らすことはしなかった。やがて禍々しい尖った気配が薄らいで、代わりに脱力感たっぷりのため息が零される。
「そこからなんだと思ったら腹立たしい気持ちはあるけど……仕方ない。褒められた出会いじゃなかったのは僕のせいだから。この離れ過ぎた温度差を縮める為に出来ることをしようと思う」
いきなり立ち上がった彼にビクっとして、近付いて来られたことにギョっとして、その場でゆるりと跪く姿に唖然とする。
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