追う者と追われる者。恋愛の終着点はどこですか?

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「ななな何をなさって……?」 眼下の艶やかな黒髪。つむじまで見えている構図の異常さに、脳より身体が素早く動いていた。 つるんと自動的に椅子から滑り落ちたお尻がふかふかな絨毯に辿り着く。 王様を見降ろす不届きな庶民から解放され安堵した瞬間、目と鼻の先にある黒曜石の瞳とかち合った。 んぐ……っと、喉が変な音を立てる。 床についていた自分の手の甲に重なる大きな手の平と、強く真剣味を帯びた眼差し。思い切り吸い込んだ例の香りに視界を揺らされる。 「どこが好きなのか全部言おう。納得してくれるまで。何度でも。いまの僕は王ではなく、サエに愛を請うただの下僕だと思って聞いて欲しい」 「げ、ぼく……」 耳に届けられた言葉の意味。 それを理解する前に反芻したのは、脳の許容範囲を超えて無意識に漏れ出たものだ。 「僕に意見する強気な君が好きだ。突拍子もないことをしでかす読めないところも、僕を歯牙にもかけないつれないところも、なのに触れれば照れる初々しさや抱き心地の良さも、サエの全てに僕は魅了されている」 「……ちょっ、ストップっ!」 垂れ流される愛の囁きに全身が火を噴きそうになっている。着眼点が微妙だと思うけど、それを指摘する余裕はない。 言葉とともに迫り来るラウル様が仰け反るわたしの腰を攫い、身体全体を使って床に倒しにかかる。 逃げれない。踏ん張りの効かないしゃがみ込みは、ほんの少し力を加えられただけで容易く組み伏せられていた。
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