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寝ずに語り明かした次の日の朝、お父さんの行動は早かった。
ご機嫌の麗しくない羊達と過ごし、噛み跡がたくさん残る足を引きずりながら歩いていると、ゆっくりとした動作で村に似つかわしくない洗練された人物がわたしに向かって来るのが見えた。
一瞬で緊張に震える身体を深呼吸で落ち着ける。会いたいと言ったのはわたしの方だけど、いざ目にすると尻込みしてしまう。
高鳴り過ぎる心臓が痛い。
言葉は喉に張り付き出て来ないので、何とか取り繕うべく笑顔を浮かべてみましたが、顔面が強張っているのでたぶん微妙な感じだと思います。
「サエ。変わりないか」
「はい……クロードさんも相変わらずカッコいいですね」
目の前に立つ彼は、宮廷騎士団の白銀の鎧と緋色のマントを身に付けていて、久しぶりのその迫力はお世辞を抜きに腰が砕けそうな眩さだった。
同志たちが見たら鼻血ブーで卒倒するんじゃないかな。……わたしもヤバいですが。
「急に居なくなってごめんなさい。心配しましたよね」
「ああ、何度食らっても耐性はつかないな。サエは俺を振り回す天才だと思うことにしている」
恨めし気に零されては苦笑するしかない。
立ち話は足が痛いし目立つので木陰に誘って2人でその場に腰を下ろした。
「……ポロ村は美しいところだな」
「そう言ってくれて嬉しいです。辺鄙で何もないですが、自然も人も優しくてあったかくて、わたしは大好きなんですよ」
「ずっと引き留めていて悪かった」
「いえ……結局、強行突破で帰っちゃいましたから」
どこまでも広がる青の風景。遮る建物もポツポツとあるばかりで、王都のような華やかさは欠片もないけれど。クロードさんが目を細めて眺めていることが素直に嬉しかった。
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