番外編 ひたすら我慢の子

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「本当に貴族様だったんですねー」 「お前の言う、なんちゃってってヤツだけどな」 主人の居ない屋敷を侍従や侍女に任せ、数回しか足を踏み入れたことのない俺が、突然、女と一緒に帰って来たら誰だって驚くよな。 一見、普通に茶の用意を始めている侍女も、抑え切れない好奇心の眼差しがチラチラとして、他の奴らは奴らで、心得えましたとばかりに一斉に同じ部屋へ向かって行った。 ……寝所だな。 あからさま過ぎるから、気になってサエを見れば、部屋の中を歩き回って「ほへー」とか「はへー」とか、1人で感嘆の奇声を発していた。 ……だよな。お前ってそんな奴だ。 「サエ。見物が終わったなら座れよ」 茶器を見て、テーブルの上の菓子に笑って、素直に隣に座って食べ始めたのはいいけれど。 ……もしかして俺は部屋や菓子以下なのか。 久しぶりに会ったはずなのにぜんっぜん目が合わない。というより眼中にない状態になってないか? 「……ポ、ポロ村で何かあったのか」 「特別、何もないですよ。あ、ただ羊達がやっと機嫌を直してくれましてですね」 「へぇ、良かったな」 「ええ。お父さんもラウル様も、足についていた歯型がなくなって喜んでくれました」 ……ちょっと待て。誰が、喜んだって? ベリスはいい。奴はまぁいいとして。 ラウル……ラウルって、あのラウルだよな。 リュドの奴、何やってんだ! 見張りに雇ってる意味がないじゃねぇか!
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