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「俺の名前だ」
あんたかい!という突っ込みは心に留めておいた。
よもや麗しの騎士様と同じとは……
何たる偶然。何たる事実。驚きだ。
「もう一度聞こう。お前の名は?」
「……サエ」
名乗られたのに名乗らないのは礼儀を欠く。
誤解が解けたはずなのに、未だ剣の位置を変えない男に不審な目を向け答えた。
「ポロ村のサエで間違いないな」
「そう言ってるじゃない」
「では、どうやってここに来た」
どうやって……?
だだっ広い部屋の中に目映く輝くシャンデリアや、壁に飾られた絵画の高尚な雰囲気。
村一番お金持ちの村長の家だって、こんな金ピカで上品な部屋はなかったはずだ。
「夢……かな?」
「残念ながら現実だ」
「まさか……誘拐?!」
「する意味も理由もないだろう」
う…っ、確かに。
ウチの家訓は質素と倹約だ。
誘拐したとしても身代金がホコリしか出ないような貧乏一家の、さして美人でもない平々凡々な娘という自覚はちゃんとある。こんな立派な部屋を持つ人が攫うはずもなかった。
「ポロ村に帰りたい!」
「帰りたいなら話すんだ」
「知らない!分からない!」
見知らぬ部屋、見知らぬ人、どこもかしこも知らないだらけで急激な恐怖と不安に襲われる。
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