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「泣くな……怖がらせてすまない」
サエは思い切り大泣きしていた。
立派な大人のレディともあろう者が、お尻の下のふかふか豪奢なベッドの布団をもぎ取って、細かな刺繍に顔面を押し付け涙を拭き拭き鼻を噛み噛み、とにかく駄々っ子のように腹の底から泣きじゃくる。
「アルディ、来てくれ」
男…クロードは、ため息と共に剣を腰の鞘に収めると、華麗な彫り物を施した重厚な扉がすぐさま開き、白銀の胸あてを身に付けた若い男が入って来た。
「別室で休むから彼女を頼む」
クロードの言葉に何か言いたげな目線を投げかけるアルディだが、それ以上は踏み込まず、出て行くクロードを無言で見送り、もぎ取った布団をミノムシのように身体に巻き付けベッドに沈み込むサエを眺めた。
「……貴方は誰ですか? アルディさんとやら」
「知っているじゃねーか」
「視線を感じるので見ないで下さい」
「見えてないだろ」
ええ、ええ、見えていませんとも。
布団は被ったままだから。
ですがね、チクチクというかグサグサというか、布団を通り越して身体に直接刺さるような、得体の知れない不気味なささくれ立った気配がするんです。
「気のせいだ」
「いいえ、悪意が伝わってます」
「へぇ……察しがよろしいじゃねーの」
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