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何だその変な丁寧語は。
人を小バカにした有難くない肯定を聞かなかったことにしようか。
「俺はまどろっこしいのは好きじゃないんだ」
「奇遇ですね。わたしもです」
「だから単刀直入に聞く。誰に雇われた」
なるほど……
身をえぐるような悪意の理由はこれだったのか。
間違った労力の使い方をするアルディさんが気の毒になる。
「色んな人に雇われてますよ」
早朝は村長さん家の無駄に運動量の多い羊の世話をして、昼は恒例の老人会の進行役をこなし、合間に足の弱ったメリおばぁちゃんの買い物と食事を作ってですね。
夜は夜で閉まる前に急いで本屋に宮廷騎士様の新刊情報を聞きに足繁く通って、王都から一年遅れで隣町に入荷しようものなら店主に代わって徹夜で仕入れに行ったりもします。
仕事がないと嘆く若い世代は村を離れて王都に行くし、ポロ村よりほんの少しばかり栄えた隣町の奴らは原人の住むど田舎だと陰口を叩くけど、そんな事はありません。物を大事に使う習慣が身についているだけでわたしは毎日大忙しですから。
怒涛のように喋っていたら息苦しくなってきた。
重さすら感じない布団から顔を出し、こんなに話しておいて今更だがアルディさんと初めてのご対面。
ふむ。
少々つり目気味だが見た目は悪くない。
クロードさんより若いようだし、ひょっとしたらわたしよりも年下かもしれないな。
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