いざ、王宮へ

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草木も眠る丑三つ時、静まり返った廊下を足早に動く影が一つ……と半。 曲がり角は特に用心深く、夜目が利く特技を最大限に発揮して、見廻りの衛兵が居ないかを確認する。 よし。大丈夫。 次の角まで抜き足差し足忍び足…と多少ぐらつきながら、ちょこまかちょこまかと目的地へと急いでいた。 道は覚えている。 ハイテンションで今朝通ったばかりだから。 さよならも言わずに去る事をお許し下さい、と心の中で呟く。最後の砦となる外への扉に向けて一気に加速し、し、し………ん? おかしいな。 懸命に足を動かしているのに全然前に進みません。 ちょっと欲張り過ぎたかと、反省のつもりで背にしたモノに目を向けた瞬間、ウヒョォォッ!と小さな叫び声が漏れ出た。 「……これは何の真似だ。コソ泥」 「み、見逃して下さいっ!」 「逃すわけねぇだろ。来い!」 「いやーーっ!やめてーーっ!」 あと少し、あと一歩のところだったのに。 鬼という名のアルディさんに見つかった不運に泣き濡れた。 背中の風呂敷ならぬシーツを掴まれ、肩を掴まれ、どう足掻いても逃げられず、そのまま後ろ向きで廊下を引きずられて行く。 どうしてバレたのかと聞けば、お前の思考と行動パターンはだいたい把握しているとの返事を頂きました。 何という観察力だ。 完敗です…が、離して下さーーい!
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