305人が本棚に入れています
本棚に追加
「泣くな。泣いたって解決にはならない」
「泣いてません」
「そうか……じゃあ俺の指を濡らすコレは何だろうな」
背後からスッと伸びたアルディさんの手が頬に触れる。意地をはって、それは涙じゃなくて鼻水ですと答えたら、汚ねーなと笑う声がしたが手が退くことはなかった。
「魔術って、本当にあるんですかね?」
「お前のいいところはノー天気なとこだな。
クロード様以前に、ポロ村からここに来たのだって魔術だろう。俺の腕から消えたのだってそうだ」
「わたしがやったんですか?」
「無意識なのは分かっている。だが、これからはそれではダメだ」
「王妃様との約束があるから?」
「それもだが……クロード様にかかっている術を解かないと、お前の貞操の危機はずっと続くぞ」
「解くって。簡単に言わないで下さいよ」
そんなの出来ないし、ましてや術をかけたつもりもないのだから。やっぱり逃げるべきか、と分からないような歩幅でアルディさんから距離を取ったら、すぐさま胸の中に囚われ、ガッチリとホールドされた。
「宮廷騎士団の情報網を甘く見るな。
何の策もなく逃げたところで捕まるのがオチだ」
「今がまさに、ですよね」
「分かってんなら現実を受け止めて任務を遂行しろ。俺も協力するから。いいな」
ちっとも納得などしていない。けれど「うん」と言うしかないじゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!