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はっ…照れてる場合じゃなかった。
わたしも負けじと返事をせねば、ジュール王国は気の利いた言葉も返せぬ田舎者の集まりだと、異国の間で笑い者になるだろう。(勝手な妄想)
一村娘ですが、正真正銘の田舎者でありますが、彼にとったらわたしは王宮の人間だ。国の沽券に関わる真似は出来ない。
「あ、貴方も素敵ですよ。王子様みたいで。いい目の保養をありがとうございます」
き、気負い過ぎたか。
せっかくのイケメンがキョトンとした表情をしております。他に何か取り繕わねばと焦りまくる。
「惜しい……僕は王子様じゃないよ」
「あ、あは。そ、そうでしたか」
いかん。恋愛小説の定番イケメンイコール王子だの御曹司だのと、そんなワードしか浮かんで来なかった。ボキャブラリーが少なくて申し訳ありません。
「面白いお嬢さん。失礼じゃなければ君の名前を聞いてもいいかな?」
「あー、はい。わたしはサエと申します」
「サエ、ね。いい名前だ。僕はラウル。
まだお喋りしてたいところだけど、後ろの彼が怖いからやめておくよ」
え、後ろ?
振り返ろうとしたらギュッと手を取られてよろめいた。
「近いうちに。また会おう、サエ」
耳に落とされた囁き。彼には内緒で、と付け加えたラウルさんは茶目っ気たっぷりに笑う。
横の小道に去る背を見ながら、最後まで乙女心をくすぐっていくことに感嘆のため息が出た。
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