謎に蹴躓いて陰謀に囚われる

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「これはこれは……ぶさいく黒頭巾にクロードの忠犬ではないか」 王宮図書館に着いて早々、会いたくない人物に出迎えられた。笑顔を忘れるなというクロードさんの助言は、今のわたしに届かない。 顔面蒼白のまま無言でアルディさんの緋色のマントを掴んでいた。 ここに何の用だと、ジロジロジロジロちっこい背をうんと伸ばして嫌な視線を浴びせてくるが、それどころじゃないので対処を全部彼に放り投げる。 「ノエル様、今日もお元気なようでなによりです」 「ふん。心にもない事を言うな気色悪い」 「相変わらず口がお達者ですね。まだまだ棺桶に入るには先のようで安心しましたよ」 「無礼者め。王妃のお気に入りか知らんがいい気になるなよ、若造が。 ニヤついた黒頭巾も気味が悪いが、やはりお前の笑顔が一番気に食わんわ」 「恐れ入ります」 華麗に腰を折り曲げ最低限の礼を取るアルディさん。クロードさんより身分が上のノエル様に向かって何て言い草だ。 自動的に入って来る言葉のやり取りに、飛んでいた意識が現実に戻ってきた。 行くぞと奥に進む彼に、貴方も斬り殺されるのではと聞けば、あれはいつも通りの挨拶だと返される。 王宮とは、得体の知れない魑魅魍魎が渦巻いているところだと、改めて身が引き締まる思いだった。
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