パパに捧ぐ

2/2
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
栞。 本好きのパパからつけられたわたしの名前。 サザンも好きなパパ。 ちなみに姉の名前は渚。 人は誰でも一冊は本にできる。自分の人生を描けば。 自分という一冊の本を書くつもりで、 人生を生きなさい。 ヒロインは自分なんだ。 そうパパは教えてくれたね。 誰かが読んでくれてると思って楽しんで生きなさいと。 夏休みの課題みたいに  経験した恋を気持ちを作文しなさい、みたいな感じで。 あの『セカチュー』だって、作者がパパの知り合いの人らしくて、 実際のヒロインは今でも地元の書店で働いてるって教えてくれたね。 同窓会で「勝手に殺さんとって」って笑ってつっこまれたとか。 パパは姉とわたしが幼い時、いつも寝る前にベッドで電気を消して 自分で作った話で笑わせてくれたね。 だいたいのオチがウンコ漏らした話や、電車のドアにちんちんが挟まってとれた話だったけどね。 そんなパパの最後の遺書が見つかった。 『世界の終わりと愛妻弁当』 バブルは終わった。 2億あった金が溶けた。 豪遊した日々。 外で飯食う金がなくなった。 でもおれには妻と子供がいる。 タクシーの運転手の仕事にありついた。愛妻弁当を手渡された。 塩分6パーセントのはちみつ入り梅干しの日の丸弁当。 子供の寝顔が愛しかった。だからくじけずに頑張れた。 よくドライブがてら出かけた。 娘たちに好きなダンスグループのDVDをよく見せてた。 口ずさんで踊ってくれたね。 昔は外ではそうとう女を泣かしてきた。 全盛期は人気女優も抱いた。 妻も泣かせた。 コンドームとラブホの会員カードを目の前で財布から落としたこともあるよね。 スーツの裏ポケットからだったっけ。 晩年、外の世界ではすべてを失ったけど、 内には家族がいてくれて、愛だけが残ってたね。 まあそれが一番大事で、一番手に入れにくいものなんだけどね。 どんな高級レストランの食事よりも愛妻弁当のほうがおいしいって最後に気づかされたよ。 癌でもうあと幾ばくもないけど、まかせたで。 家族で力を合わせてください。 おしまい。 もうすぐ車が出発する。 パパの好きだったサザンの『栞のテーマ』のオルゴールが流れる。 最後みたパパは優しい寝顔で安らかに眠っているようだった。 遺影の顔も穏やかで幸せそうだった。 パパの言った通り、人の人生は一冊の本と一緒だね。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!