「絶対に守るって、あの時誓ったの」

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 突如、街頭の拡声器から長距離砲撃を警告する独特のメロディが鳴り響いた。通行人たちが蜘蛛の子を散らすように駆け出す。シビラもまた、近くの公共避難壕へ走ろうとした。  その時、噴進弾の飛翔音とは異なる音が響いた。咄嗟に伏せるシビラ。数秒後、それは轟音と共に飛来し、街路の真ん中に着弾した。石畳の破片が唸り声を上げて飛び散る。  濛々と吹き上がる土煙が晴れる。キュプリス神殿の大円柱のように巨大な物体が地面に突き刺さっていた。物体は側面の扉を開くと、中から異形の怪物を次々と吐き出し始めた。  蜘蛛の脚、カマキリの胴体、牡山羊の頭。ハカーマニシュの生物兵器、キメラだ。  十数匹以上のそれは着弾地点から飛び出すと、茫然とその光景を眺めていた市民たちに一斉に襲い掛かった。    角で突き鎌で刎ね、キメラたちは殺戮の限りを尽くす。街路は一瞬にして死体で溢れた。  凄惨な光景を見てシビラは、栄養失調で力の入らぬ足を懸命に動かし、その場から逃れようとした。  しかし、一体のキメラがそんな彼女を鋭く見つけ出していた。舗装を砕き轟音を立てながら怪物が走り寄って来る。    シビラはただ生存本能に突き動かされて、路地裏を目指して駆けた。狭い道に入れば、あの巨体は入ってこれないはず。そう考えた。  だが、シビラは人間であり、キメラは兵器である。兵器が人間を殺すように設計されている以上、最初から勝負は見えていた。 「ああっ……!」  あと数メトロンという距離で、シビラは焼かれるような感触を右足に覚えた。黒い剛毛を生やしたキメラの脚が彼女の足を貫いたのだ。傷口から真っ赤な血潮と暗緑色の毒液が滴り落ちている。  そして、振り上げられる鎌。このまま数秒も経てば、彼女の頭部は永久に胴体と泣き別れすることになる。
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