「絶対に守るって、あの時誓ったの」

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 少女に肩を貸してもらい、シビラは足を引き摺りながら歩き始めた。二人は路地裏に入り、そのまま奥の行き止まりまで進むと、金属製の蓋が付いた暗渠点検口に辿り着いた。 「ここを降りるのよ」  梯子があるとは言え、右足が使えない状態で垂直の縦穴を降りるのは本来ならば不可能なはずだった。だが少女が呪文を唱えると、シビラの体はふわりと綿のように宙に浮かび、そのままゆっくりと穴を降りて行った。  中は湿気に満ち、悪臭が芬々としていた。しばらく進むと、こじんまりとした天幕があった。その内部は蓄光石の照明で夜明けの空のように薄明るく、しかもどのような装置が用いられているのか、清浄な空気が保たれていた。  二人は藁を固めた粗末なマットレスに身を休めた。しかし、どちらも口を開かない。内気なシビラは目を伏せ、一方赤髪の少女はじっと彼女を見つめている。  沈黙を破ったのは、少女のほうだった。 「ここまで来ればもう大丈夫。それにしても災難だったわね。傷が癒えるまでしばらくここで休んでいくといいわ。食べ物も水も蓄えがあるし」 「あ、あの……本当にありがとうございました。そ、それであなたは……うっ、うう……」  礼を言おうとしたその時、彼女の体が突然震え始めた。体の芯から揺さぶられるような、不随意な震え。顔面は蒼白で、口からは泡を吹いている。全身から力と熱が抜け、視界が急激に闇に染まっていく。  少女が叫んだ。 「しまった! ハカーマニシュの奴ら、新型のキメラを投入したのね! なんて卑劣な!」  その言葉は、もはやシビラには聞こえなかった。痙攣しながらも彼女は無意識に懐のお守りに手を伸ばし、固く握りしめた。  少女の声が遠く聞こえる。霞みのかかった谷の向こうから聞こえてくるような、幽かな声。 「私が治してあげる……安心して……あなたは私が絶対に救ってみせるから……」
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