貴男《あなた》という人。

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私はずっと貴男が好きだった。友達としてではなく、恋愛対象として貴男が好きだった。 貴男といる時間はとても心地よかった。隣で座って話しているとつい寄りかかって眠ってしまう貴男を子供みたいに撫でると気持ちよさそうな顔をしていたよ。もう少し貴男と話したかったけどね。 休みの日、思い切って旅行に誘ったらいつもいいよって言って色んなところへ行ったね、すごく楽しかった。貴男が突然一緒にお風呂に入ろうなんて言うから心臓が飛び出るかと思ったよ。貴男は男同士なんだから…って言ってたけど、私は思わず空を見上げて恋愛の神様っているのかな、なんて考えたり。ドキドキしながら体を洗いあって一緒に浸かった湯船はとても気持ちよかった。 そういえば、私がよく寒いと言って貴男の布団に入り込むこと、どう思ってたのかな?貴男が抱きしめるから体が火照ってしょうがなかったよ。だから貴男に気づかれないようこっそり処理したりしてたんだ。私が貴男のことを好きで告白しようとしてた、なんて夢にも思ってなかったんだろうな。まぁ、この関係を壊したくなくてそんなことできなかったんたけど。 もう少し、貴男と話がしたかった。私が考えた空想の話を語りたかった。どうして最後に、最後の最後に、愛してるなんて言ったんだろう。貴男を守ることしか考えてなかったのに。そんな泣きそうな顔しないで、笑って生きて。 貴男はずっと私が好きだったのかな。恋愛対象じゃなく、例えそれが友達としてでも私は嬉しいよ。もし私に恋してくれてたのならもっと早く告白してれば良かった。 私のことは忘れて、今度は男じゃなくて素敵な女の子とたくさん旅行して、恋して、結婚するのかな?私の分まで、幸せになってね。 その日のニュースでは、ある交通事故が報道されていた。居眠り運転していたトラックが反対車線を走行していた車にぶつかったというものだった。追突された車はトラックを避けるようにハンドルを切って急ブレーキをかけたものの回避出来ず、そのまま運転手席側だけぺちゃんこに潰され、懸命な救助も虚しくそのまま亡くなった。同乗していた男は病院に搬送され、命に別状はないらしい。田舎町の小さな病院だった為か、その男の病室には、名前がフルネームで記載されていた。増田(ますだ) 貴男(たかお)と。
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