1 不思議な卵

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1 不思議な卵

 それはある穏やかな日のことでした。  季節は秋になったばかり。  青々とした葉っぱは落ち着いた黄色に変わってきて、地面には淡い色彩の小さな花がぽつぽつと咲いています。  やっと夏の暑さがやわらいだみらくる村は、心地のいい空気に包まれていました。 「あたしもう飽きちゃった」  伸びと共にそうぼやいたチェリィは木の根元に座り込んでしまいました。今日は森の中までやってきて薬草摘みをしていたのです。  チェリィは今年で十二歳になります。最近長かった髪を短く切ってちょっとだけ活発な印象の見た目になりました。  前々から母に魔法を教えてくれと頼んでいたチェリィは、最近になってようやく勉強をさせてもらえることになったのです。けれどやることは薬草摘みなどの雑用ばかり。  それはいいのですが魔法についての基本的なことは母が直接教えてくれるわけではなく、なぜか母の弟子であるレインから学ぶことになったのです。  母から直接指導を受けられるのはまだまだ先とのことなので、チェリィは不満でした。 「ずるいわ! あんたは最初からお母さんに教えてもらっていたのに、なんであたしはダメなの?」  一緒に森で薬草摘みの付き合いをしていたレインはうんざりした顔で答えます。 「そういうのは俺じゃなくて師匠に直接聞いてくれよ」  やる気のない様子で正論を言うと、レインもその辺の木にもたれかかりました。  近くに敷いたシートの上ではチェリィに付き添って一緒に森へきていたジミーが、まったりとお茶をすすりながら二人の様子を見守っております。 「あたしは早く魔法を使ってみたいのに」 「言葉で教えたところで使えるようになるわけじゃない。こういうのはきっかけがないと」 「きっかけって?」 「魔法を使える為の兆しが現れるまでは知識だけ詰め込んだって意味ないんだ」  確かにチェリィは母とレインが勉強している様子を見たことがあるのですが、内容はさっぱりわかりませんでした。  出てくる用語を知らないからというだけでなく、チェリィが魔力について体感的に理解していないから話についていけないとのことです。
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