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少女は一緒に馬車から降りてきた他の神官さん達を引き連れて神殿の中へ入っていき、その姿が完全に見えなくなってからチェリィは恐る恐る出てきました。
「ねぇレイン、あの子をどう思う?」
「少なくとも俺の好みではないけど」
「そういうことを聞きたいんじゃないの!」
限りなくどうでもいい情報を聞かされてチェリィはぷんすこしました。ただならぬ事態を察してジミーは首を傾げます。
「あの子がどうかしたの?」
「なんだか嫌な感じがしたのよ」
チェリィの背筋はまだぞわぞわしています。
いつまでもこんな場所にいたくなくって、逃げるようにチェリィはそこから走り出しました。
けれど前をよく見ていなかったので彼女は通りすがりのおじさんにぶつかってしまいました。
「あっ、ごめんなさい」
「いえいえ、こちらこそ申し訳ありませんでした」
相手は紳士的な態度のおじさんでした。
今日はよく人とぶつかる日です。それでも相手が笑って許してくれたのでチェリィはちょっと安心しました。
この人も上質そうな法衣を身にまとっており、威厳のある雰囲気だったので神官さんの中でも上の立場の人なのだろうと一行は勝手に推測します。
神官さんはにこやかな表情でしたが、チェリィの顔を見た途端ハッしました。
「エイミー様?」
それは本当に小さな声でしたが、チェリィにはちゃんとその言葉が聞こえました。
「ああ、すまないね。知り合いに似ていたもので。それじゃあ失礼するよ」
その時チェリィは、大事に抱えた卵がどくりと鼓動を打ったように感じたのです。いえ、実際に鼓動が脈打ったのはチェリィの方でした。
「ねぇ、おじさん待って」
チェリィは咄嗟に神官さんを呼び止めました。
ある気持ちの良い秋の日に、突然知らない場所に放り出されたチェリィ達。
ドラゴンに守られているというこの国で、チェリィは確かになにか大きな運命の巡り合わせを感じたのです。
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