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「おはようございます、先生」
バレンタインデーはどうでしたか、なんて聞くまでもないぐらい非常に上機嫌の遊佐だ。
もちろん、川嶋はプライベートを詮索なんてするはずもないので、それ以前にそんなこと聞くわけないが。
「ああ、おはよう。今日もよろしく頼む」
続けていつもどおり今日一日の予定を読み上げようとした川嶋に、不意に遊佐が問う。
「川嶋はディズニーランドに行ったことがあるか?」
川嶋は、ぐっと下腹に力を入れた。
表情を変えないように堪える。
例え彼のボスからとても言いそうにない発言があったとしても、驚いたり笑ったりするのは秘書としてあるまじき行為だ。
いつもどおりの声で、淡々と答える。
「それなりにございます」
そして川嶋は、すぐに自分がすべきことを悟った。
「よろしければ後程、ディズニーランドに関する資料を揃えておきますか?」
遊佐が微笑んだ。
「頼む」
それから、今日の予定を読み上げつつ、川嶋は顔が笑ってしまわないようにするのに随分腹筋を使うことになった。
遊佐とディズニーランド。
遊佐とミッキーマウス。
似合わなさすぎて面白すぎる。
遊佐の悪友の桐野が聞いたら大爆笑するだろう。
しかし、川嶋は、遊佐の優秀な秘書である。
だから、遊佐のために必要な資料を整えるため、てきぱきと働き始めた。
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