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でも、まさか、早速連絡するような事態が起こるとは、思ってもみなかった桜田である。
試験監督のバイトが終わって、桔平を含む数人でボウリングでも行こうということになった。
みんなでワイワイ歩いているところに、その車が寄ってきたのだ。
黒塗りの高級車。
最後尾を歩いていた桜田と桔平の横にスッと止まる。
桔平は、1ヶ月前にも似たようなシチュエーションで拉致されたことがある。
明らかに警戒して桜田と顔を見合わせた。
桜田も、小さく頷いてポケットのスマホを握りしめる。
すぐに連絡できるように。
車の窓がスルスルと開いた。
「そう警戒しなくてもいい」
中に乗っていた白髪のやたら威圧感のある男性が、値踏みするように鋭い視線を桔平に這わせた。
「君が堀越桔平だな」
桔平を庇うように前に立つ桜田には目もくれない。
「遊佐先生に連絡しても構わん、少し私と食事に付き合ってくれんか」
人に命令することに慣れている有無を言わせない声だ。
桔平は、しかし、少しムッとして言い返した。
「俺は名乗らない人と食事をするつもりはありません」
そもそも、友人と約束があるので。
黒塗りの車に拉致されて怖い思いをしたのはまだ記憶に新しい。
いきなり車に連れ込むような真似をされなかったからといって、おとなしくついていく理由にはならない。
白髪の男は、ふむ、と頷いた。
「多少は警戒心を持っているか…そうでなくては困るがな」
だが、と続ける。
「遊佐先生にいくら頼んでも会わせて貰えないとなったら、少々強引な手を使っても仕方あるまい」
そんなに心配ならそっちの彼も一緒でいいから、と桜田のほうを顎でしゃくった。
そういう問題じゃなくて自分たちはこれから予定があるのだ、と桔平が頑なに断ろうとしたそのとき。
「堀越君」
新たな声が、彼の名を呼んだ。
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