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遊佐は、腕の中で眠る愛しいひとの髪を優しく撫でる。 桔平が春休みなのをいいことに、このところ毎晩自宅に連れ帰っていた。 この温もりが腕の中にあることに慣れてしまったら、もうアパートには帰したくなくなってしまいそうで怖いけれど。 もちろん川嶋から、翁川が桔平に会いに行ったという報告は受けていた。 更に先程、本人の口から詳細な顛末を聞いて、一層苛立ちを覚えていた。 もし、そのとき桐野が通りかからなかったら、無理にでも車に乗せるつもりだったのだろう。 それでは、1ヶ月前、桔平を拉致した輩と同じではないか。 害を与えなければいいという問題ではない。 桔平はまだ、あのときの心の傷が完全に癒えているかもわからないのに。 あの古狸が一筋縄ではいかないことはよくわかっているけれども。 それなりのペナルティは受けて貰わないと気が済まない。 髪を撫でている手を、そっと首筋に移す。 その首にかかっている細い鎖に触れる。 この国では、同性同士に婚姻という法制度はない。 こんな鎖でしか、不確かな関係を繋いでおけない。 桔平が、自分のせいで何か傷を負って、離れていきたいと言ったら。 せっかく嬉しそうに受け取ってくれたこの鎖を、手放したいと言ったら。 傷つけたのが自分のせいだとわかっていても、自分は彼を手放せるだろうか? たぶん…いや、絶対に無理だ。
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