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「本日のスケジュールはこれで全て終わりです」
川嶋のいつもどおりの言葉が全部終わる前に、遊佐は部屋の隅に置いてあるハンガーラックからコートを掴んでいた。
驚く様子もない川嶋が「明日は全休です。明後日の予定は…」と淡々と予定を読み上げている間に、コートを羽織り、帰る支度を整える。
「…以上ですが、何かございますか」
川嶋は、最後までいつもどおりを崩さない。
遊佐が早く帰りたがっている理由なんて、朝からわかっている。
いや、もう数日前から予想できてしかるべき事態である。
今日は、2月14日。
聖バレンタインデーだからだ。
「いや、何もない。お疲れ様、川嶋。よい休日を」
とても機嫌良さそうに、遊佐は完璧な微笑みを見せた。
そして、颯爽と部屋を出て行く。
川嶋は、閉じたドアをキッチリ30度のお辞儀で見送る。
お辞儀の下、いつも変わらないはずの表情を少し緩めた。
あまりにもわかりやすい遊佐が微笑ましかったのだ。
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