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バレンタインデーはバイトが休めなくて…でも、次の日なら休めます。
桔平が申し訳なさそうにそう言ったのは、2月に入ってすぐぐらいだった。
遊佐はもちろん、行事だの記念日だのにこだわるタイプではない。
が、女性はそういうことが好きだと言うのは十分にわかっているので、これまで付き合った女性たちには、付き合っている間に行事があれば、それなりにちゃんとこなしてきたつもりだ。
いわば、それは男としての当然の義務みたいなものだと思っていた。
だけど、彼がメロメロになっているこの年下の恋人に関しては全然話が別だ。
行事でも記念日でも全力で取り組みたい。
彼が喜んでくれるなら、笑顔になってくれるなら、なんでもしてあげたいし、願いは全部叶えてあげたい。
もういっそ、毎日でも記念日にしたいぐらいだ。
もちろん、そんなことを考える自分の頭のネジは随分抜けてるんだろうということは自覚済だ。
話を戻すと、バレンタインデーにバイトが休めない、と言って申し訳なさそうにする桔平も可愛くて愛しいな、と思った遊佐なのである。
しかも、翌日に休みを取ってくれるなんて、そのほうが嬉しい。
遊佐は、通い慣れたコンビニの前に車を止める。
桔平はもう春休みに入っていた。
本来、働き過ぎてバイト時間を調整する時期に入っているはずが、3ヶ月ぐらい前に肋骨骨折で1ヶ月半ほど休んだため、フルに働いても大丈夫になってしまったらしい。
他のバイトの子たちが調整せざるを得なかったりしてるので、桔平のシフトが必然的に便利に使われているということだ。
車から降りてコンビニに入ろうとしたところで、逆にその自動ドアから出てきた桔平とぶつかりそうになって抱き止める。
「今日は上がりが早かったな」
「遊佐さん」
自分を抱き止めてくれたのが遊佐だと気づいた桔平の顔が、一瞬でほんのり赤くなった。
「ホントは今日は休みのはずだったから、早めに上がらせて貰ったんです」
そんな照れた顔をされると、コンビニの真ん前でもキスしたくなって困る。
というか、もう今更な気もするけど。
コンビニの同僚たちは、明らかに遊佐と桔平の関係に気づいているのだ。
毎日迎えにくる男に、あんなに顔を赤くしてたら、それは気づかないほうがおかしいと思うけれども。
それでも、桔平が嫌がることを、もちろんするつもりはない。
…たまに少ししてしまうのは許される範囲だと思っている。
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