第一章

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鹿能は喫茶・敷香の生花を祭壇の端に立てて「周りは有名な会社の供物や供生花ばかりやなのに、あの夫婦はわざわざ店の宣伝だけで頼んだのだろか、それともご近所の手前で賑わしでもないだろうにこんな目立つ場所に当家とどう云う関係なんやろう」とじっくり眺めた。 午後に自宅で納棺された会長の遺体が実家からホールに到着した。棺はそのまま祭壇の前に安置された。付き添った遺族はそのまま控え室でくつろぎ始めた。一段落した鹿能もロビーで会場全体の飾り付けをチェックしていた。そこにやって来た喪服の若い女性が鹿能に声を掛けた。いろは商事に何の縁もない鹿能は驚いて呼ばれた方へ振り向いた。昨日会った女性だった。 「やっぱり鹿能さんねまさかと思ってお声を掛けたけどどうして此処にいるんです」 「花屋で今日このホールである会場の飾りをしているんです。あなたこそ故人との親戚ですか」 「亡くなられたのはあたしの祖父です」 「ええ! 今日の通夜はハ、タ、ノ家、そう云えば波多野さんですね」 奈美は吹き出した。 「鹿能さん、あなたまさか誰の葬式かも知らずにやってるんじゃないでしょうね、入り口の案内の表示はどなたがしてるんです」  広い一階でも二件に分けて葬儀がある場合は間違いを避けるために当家の名前を確認する。が一件でワンフロアー使う場合はいちいち入口で名前は見ない。見ても似た様な名前程度しか認識しない。 「いろは商事の会長が波多野さんなんですか。じゃああなたはそこのお嬢さん」     
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