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「ええ、恥ずかしいけど。祖父は仕事関係は一切家庭に持ち込まない人ですから。このお店は近くかしら? 昨日の今日ですからどう云うご縁の方か気になりません? 寄って見たく有りませんか」
「いいですけどその格好でわざわざ直接関係を訊きに行くんですか。それより日を改めた方が良くありませんか」
「あなたたまにはまともな事云うんですね」
鹿能はむっと顔を顰めた。
「あら、余計な事言ったかしら。でもこの格好なら偶然近くなので立ち寄ったって事にならないかしら」
彼女は喪服の両袖を摘んでから両腕を伸ばしてひけらかした。この茶目っ気のある彼女には本当にこの人はお嬢さんなのかと思わず目許が緩んでしまった。
「成る程裏の裏をかくんですね探して見ましょうか」
まずホールに勤めている近所のパートのおばさんに喫茶敷香を尋ねた。何人かに当ってやっと聞き出した。そのパートのおばさんが云うにはかなり分かり難い所らしいが行く事にした。
奈美は鹿能の仕事中を気にしたが、お客様からの要望だと言い訳するらしい。それでふたりは興味にもそそられてホールを出た。
店は白川通りから外れた裏道で曼殊院の参道からも外れていた。
「あったあった」
と見つけたのはいいがこんなに分かりにくい所なら葬儀のついでに寄ったにはなりにくい。
「これじゃ寄り道にならないわね」
彼女は喪服の両袖を広げて今一度見直した。
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