第一章

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「偶然にしてはちょっと遠いね、その姿でお礼を言えば五万の供生花の当てつけになりますね」  昨日の夫婦連れを想像するとそれは無いかと思っても、最初からつまづくのもヤバイと意見が一致した。 「帰りましょう」 奈美は喪服の裾を翻して引き返した。 「おじいちゃんはどんな方だったんですか」 故人の人と成りを知れば仕事にも一層力が籠もると尋ねた。 それは言えてると奈美は納得した。 「そうそう、おじいちゃんのためにも立派なお花を作ってもらわなくっちゃ」と奈美は語り出した。 それでどこから話せばいいかしら。そんな中途半端じゃ嫌って、じゃ最初から。  ーー祖父は若狭の小浜で生まれました。そう漁師でしたけれど事情があって地元に居られなくなり樺太まで流れていったのです。 樺太の真岡って所の町外れの網元の家にやっかいになったんですって。真岡郊外の浜は丁度ニシン漁で賑わっていたから祖父はニシンが去ってもニシンはまた春に来るからと引き留められて居着いた。  此処の漁業権を持っていたロシア人はニコラエスクから逃れて来た子孫の亡命ロシア人が引き継いでいた。祖父の良一が網元の代行で毎回権料を払いに行っていた。良一と漁業権者の亡命ロシア人とは相性か良かった。     
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