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網元が引き留めた理由はそこにあった。網元を始め昔から居る漁場の人間は付き合いですからしょうが無いがどうも毛唐が苦手なようでした。
「毛唐ですか」
「そう、当時はどうか知りませんが、おじいちゃんは向こうの人を私には面白可笑しくそう呼んでました」
ーー漁場の人はそうでしたがは網元の娘さんはそうではなかった。そこが祖父の良一と気が合い始めた。歳が近いからそこからお互いを知ろうと発展するのに時間が掛からなかった。しかしこれが網元に知れると彼は追い出された。
「何が気に入らなかったんですか」
「身元でしょう。網元には漁場の人達を食い詰めて内地から流れ着いたと云うイメージしか持たなかったんでしょう。娘さんの相手は役人か製紙会社の幹部候補しか眼中には無かったと言ってました」
ーー樺太で他に盛んなのは豊富な森林資源を使った製紙業で祖父はそこで働きながら娘さんと付き合ったのです。が、網元が会社へ手を回して祖父を遠く国境近くの町に飛ばしてしまったのです。
「こうなると向こうも意地になったみたいです」
「坊主憎けりゃあ袈裟まで憎いって云う奴ですね」
奈美は少し眉を寄せて、何という言い草ですかと鹿能を見返した。
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