第一章

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 奈美が紹介するとまず喪主の父が挨拶した。次いでその父の口から祖母が明日の棺花の花にキンモクセイを添えて欲しいと依頼した。どうしても霊柩車にはあの香りでお山へ送ってやりたいらしい。それはいいがこの時期ではもうキンモクセイは散ってる。とにかくこれから探しますがもし無ければよく似た柑橘類でと祖母を納得させるのに時間がかかった。  この後は本日の喪主を務めるお父さんも、供物と供生花の発注人の名前を確認するには、婿養子の賢治さんの方が詳しいかった。それをホールの帰り際に奈美さんに尋ねた。 「これだけ供物や生花を多いとお父さんでは無理かも知れない、それだけおじいちゃんが今まで手広くやっていたから」 手広くなくても関連会社の方のフルネームぐらいは憶えておけると思うが怠慢としか云いようがない。 「でもお父さんが社長さんなんでしょう」 「お父さんは商売人に向いてないのよ、こつこつとひとつの事に打ち込んでゆくタイプだからでもこれで覚悟を決めるしかないらしいの」 「今更大変でしょう。もうさっきの娘婿さんの賢治さんに任せたら」 「あの人はまだ若すぎるけどこのさいお父さんは隠居して会長に納まるべきかも知れないわね。それはおじいちゃんの遺言次第ね」 「まだおじいさんは棺の中から最後の指示を出すんだ。大したもんだねぇ」 「明日の夜に顧問弁護士の佐伯さんが自宅の遺骨の前で発表する段取りになってるけどどうかしらおじいちゃん何考えてたか分かったもんじゃないわ、今日は綺麗に飾り付けてもらってありがとうまたお花お願いするわね」     
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