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「奥さんの実家は岡崎辺りの洋館建てだったから当然進駐軍に一部接収されて米軍将校と同居していた。戦災を免れた町の倉庫には将校が欲しがるものが沢山あった。奥さんの伝手と会長の資産でこの商売はあっと云う間に数十倍になったそうです」
「戦後のどさくさに紛れて上手いことやらはったんやなあ」
それでもやっぱり中々出来んこっちゃと社長は感心していた。そこからどう結びついたのかひとつのアイデアに辿り着いた。社長曰く、 清楚な大輪の花をこの場合は菊やなあ、それをメインにしてキンモクセイはほとんど分からない様に配置して香りだけを際立たせる。
「社長それではイメージが合いませんよ」
「だからや逆にしてそのイメージを払拭させたら喜ばはるやろ、しゃあけどそんなスクープ誰がお前に話したんや」
「一番下の末の娘さんから聴きました。まだ二日間しか会ってませんが何か不思議なほどにもう随分と以前から会っているような錯覚を抱かされる人なんです」
ウーンと唸ってから社長は「どうせ錯覚や」と言った。
「冗談やと思ってけど白井さんの言ってた事はほんまやったんか」
社長はまた考え込んだ。鹿能はてっきり花のイメージを膨らませているものと思ったから次の言葉で驚かされた。
「これだと老舗の会長夫人に見える。進駐軍相手の濡れ手に粟の取り引きを払拭できる。真っ当な今日の商売人のイメージそのままにと誰もが見てくれる。すると波多野家からはお前の株も上がる」
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