第一章

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 鹿能は翌日の告別式は目立たぬ所から成り行きを見守っていた。しかし親族席の人々は昨夜と同じで式も淡々と進行していた。住職の読経と焼香が終わり喪主の挨拶、会長夫人の棺花になった。やはりキンモクセイの香りは目立った。しかし手向ける花束にキンモクセイの花はほとんど隠れて本人以外は目に出来なかった。大輪の菊をメインにした棺花には弔問客の反応は好意的で夫人の清楚さが浮かび上がっていた。 社長は良い仕事をしゃはると鹿能は感心していた。その内に親族の手に抱えられた棺は霊柩車に乗せられ全員が瞑想して合掌する中を車はゆっくりと走り出した。後に遺族の乗ったハイヤーが続き一連のセレモニーは終わった。 昨夜は通夜式の後に追加の供生花の設置に赴いた。その帰り掛けに白井さんから通夜膳にその男が同席して居るのが判った。が今日は一般の弔問客と同じ席に座って最後のお別れの献花には参加しないで帰った。奈美さんとの接点はなかったが、それはどの弔問客とも共通している。昨日の通夜膳のような遺族と弔問客との交流の場が今日の告別式にはなかったからだ。
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