第一章

3/28
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/188ページ
十一月朔日、今朝は秋を飛ばして冬の冷え込みだった。彼は暖かい布団の中で極楽を決め込んでしまった。会社をずる休みしてしまった。余りにも優柔不断過ぎる。人生を甘く見過ぎている。裏を返せばどうしょうもない男だった。こんな男に人生の春より黄昏が待っているのは確かだろう。どうもがいても理想の人を追えるはずがなかった。だが純粋で純情派でもあった。その取り柄だけで世間に何とか縋り付いて生きていた。 毎日秋の長雨で鬱陶しい日々が続いた。先日の台風がすっかりと秋を運び去った。今日は久し振りの平日をノンビリと市内に出た。  初めて楽しむ平日の町中で出くわすのは老人と主婦業とおぼしき非生産性の人々ばかりだった。 「日曜日は若者で溢れているのに何だこの町は」と叫んでみても変わりはしなかった。それならいっそう神社仏閣を巡ってみるか、山はともかく平地では紅葉にはまだ早かった。しかし此処にじっとしているのが堪らず、彼は北白川へ行くバスに乗ってしまった。何の考えもない子供の心理でとにかくじっとしているのいやだった。     
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!