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白井さんが言ってた受付での奈美さんへの特別な弔問者を聴いてからこの訪問を手放しで喜べない心境だった。
「それでわざわざ来られたんですか」
「おばあちゃんが大変気に入ってしまってあの棺花を、お陰でグレードアップ出来たって、本当は違うんですがあなたのものにしておきましたよ」
奈美は訳ありげに微笑んだ。
「それはありがたい」
「いつまで誤魔化せるか分からないけど・・・」
彼女は今度は意地悪そうに笑った。そしてちょっと眉を寄せた。
「ちよっと困った事が起きたの」
彼女は急に哀れっぽくなった。この彼女の急激な喜怒哀楽の変わりようが何とも云えないほど堪らなく愛おしくなって仕舞った。それほど全ての顔が絵になっていた。
「何でしょう」
「おじいちゃんの遺言です。孫のあたしにも遺産を残したのです」
本当はもっと喜ぶはずの出来事なのに彼女はそうじゃあなかった。そして今度は屹度した眼差しを遠い所へ投げた。
「遺言がどうかしました?」
彼女は聴いていないのか無視するみたいに黙った。鹿能は彼女の視線を追ったがそこに何も見えない。
「あたしに結婚を勧めるんです」
「遺言で」
「そう」
「ハア、余程おじいちゃんはあなたの事を気にしてたんですねまあ良かったじゃないですか」
「勝手過ぎると思いませんか」
「じゃ別に無視すれば」
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