第二章

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 鹿能が訪れると佐伯は予期していたのか初対面の男をすんなりと奥の応接セットのソファーに勧めた。対座した佐伯は事務員が用意したお茶をひと口飲んでから、低いテーブルに奈美からの手紙を置いた。 なぜ本人が来ないんでしょうね。まあその事は紹介所に書いてありますが、私は奈美さんを小さい頃から知ってるんですよ。それなのにこんな紙切れに用向きをしたためるなんて水臭過ぎますよ。葬式の後にあの人にとっては破格の遺言書を読ませていただいたのに、一同ざわめく中で全く顔色ひとつ変えない人ですから。長年携わって来ましたがあれには背筋に冷たい物が走りましたねぇ。あの無欲さは金で得られない物を知って居る人ですね。会長が託しただけの事はありました。 今度の遺言書の件では驚かれたでしょうなあお嬢さんは。なんせ姉ふたりを飛び越えてですからね、お姉さんたちから偉く小突かれましたよ。ただその件については本人でなく全く面識のないあなたを介されたことは・・・。まあその事については事細かく書かれてますので省きますが、取りあえず本用件のみに限定さしていただきます。  それにしても奈美さんは不人情な方ですね。あの昔の優しい面影は何処へ消えたのでしょうか。まあ嘆いても仕方がありませんなぁと喋り続けた。  実に前置きの長い弁護士だ。彼女が敬遠するのも解る気がした。 「で片瀬さんと云う人はどうなんですか」     
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