第一章

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 彼の突然の解説にジーンズに赤いセータの彼女は、切れ長の目が弓形になるとその瞳が笑った。彼女はただそこに佇む姿勢からこの笑顔までの一連の動作には、切れ目なく品の良さが漂っている。それが古風までに整った目鼻立ちと相まって美しさを際立てさせている。 「どうやってこんなに寝かせて成長させたんでしょうね?」  彼女はすっかり打ち解けた様に親しみのこもった笑顔で言い返した。 「四角い竹の場合は竹の子の段階で四角い枠にはめて成長させるから、この松も苗木の段階から当て木をして曲げさせたんじゃないかなぁ?」 「あらそうなの物知りねぇ」 彼女が少し引いたところで彼は少し慌てた。 「これは確たるものではなくあくまでも自分の推論を言ったまでですから事実と異なるかも知れませんから・・・」 「謙虚な方なんですのね、生き方としては立派ですけれど、でもそれって保身的でよくないわよ。ご自分の主張にはもっと自信を持たないと世間から負かされますよ」 大きなお世話だと思う反面、この女は何者だ。ほんのついさっき言葉を交わしただけなのにもうずっと以前からの知り合いのような言い換えれば馴れ馴れしい態度なんだろう。先程から続く彼女の親しみやすい口調がすっかり距離を縮めていたのは確かだが。そしてふと見せるこの愛くるしい表情はなんなのだろう。だがそれを考えさせないほど彼女のテンポの弾む話術に引き摺られてしまった。 「あらあたし何か余計な事を言ってしまったかしら」     
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