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第四章
琵琶湖の湖岸に添って少し開けた場所が整備されて公園になっていた。井津治は長いベンチに座ったまま湖を見詰めていた。
「良い所に住んでいるなあこうして湖(うみ)を見てると癒やされるなあ」
この男には言葉が全く似合わないから余計むかつくのを必死で井津治は押さえていた。井津治の隣にはまた押しかけて来た先日の男が座っていた。男と反対側の握りしめた手には青筋がたっていた。前回の閉鎖された部屋の空間と違って此処の広々としたところがまだ前より救われていた。
「なあ井津治、俺は失踪してもお前のことはいつも頭に思っていたんだ」
厚かましさを通り越して白々しかった。それでも目の前に広がる湖岸の風景が男の言葉を聞き流せた。
「だってそうだろう美智代のやつは俺に逆らうばかりで何も俺の言うことを聴かない」
「違う聴きたくないんだ」とうっかり口走ってしまった。相手のペースに嵌まった不覚を呪った。やっと話が繋がったと男は落ち着きを取り戻した。
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