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第五章
井津治と別れて二人は三条京阪に戻って来た。聞かされた祖父の過去にふたりとも電車内では口数が少なかった。流れ行く外の景色で気を紛らわしていたが山科駅を過ぎてから地下鉄線に入ると窓に映る冴えない顔と睨めっこしてやっと着いたのである。
改札を抜けて飛び込んだ青空で気持ちが一掃され、鴨川の澄んだ流れで心が洗われると奈美が言った。
「井津治の説明で何か分かったの」
「片瀬さんの言う由紀乃さんを彼の母と重ね合わせて聴いて居たのですが・・・」
「それで何か解ったの」
今度は催促でなく問い掛けに聞こえた。
鹿能は鴨川の河川敷を指さした。
「あそこで話しませんか」
奈美は晴れた三条大橋の袂で目を転じた。遠く北山には丹後から流れて来た雪雲が掛かっていた。
「天気はいいけどちょっと寒くない」
「でも何組かのアベックが座ってますよ」
「あんな熱々じゃないのよあたしたち」
それを聞かされてスッカリ落ち込んだ鹿能を連れて奈美は結局橋を渡り切った所にあるスターバックスに入った。コーヒーカップを持って二人は少し離れた小さな丸テーブルを囲んで座った。
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