1人が本棚に入れています
本棚に追加
目が覚めた時には、もう約束の時間を過ぎていた。
彼女から一度だけ着信があったが、寝ていた私は気がつかなかった。
掛け直すと、もう遅いよと彼女は言った。
「とにかく行くから待っていてくれ」
そう言って彼女の返事も待たず、私は車のキーだけをポケットに入れて、家を飛び出した。
彼女との待ち合わせはいつもこうだった。
いつも私が待たせた。
いつも遅いよと言わせた。
急に中止した時もあった。
当時の私は愚かだったんだと今更に思う。
今も愚かなままだ。
ただ、愚かな私を彼女は愛した。側にいてあげると言ってくれた。
その言葉に甘えていた私は、彼女が側にいてくれる心地よさに酔っていた。
本当は彼女のほうが、私を必要としていたのだということに、気づけなかった。
仕事が波に乗り始め、大規模なプロジェクトチームのリーダーを任されるようになってから、私は家にいる時間より、オフィスで過ごす時間のほうが増えた。
私の仕事の都合で見知らぬ土地にやってきた彼女にとって、頼れるのは私だけだったと思う。
そんな彼女に息子を任せて、私は仕事にのめりこんだ。
最初のコメントを投稿しよう!