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いろいろなところが凹んでいるこの愛車は、二時間かけて私を彼女のもとに運んだ。
一人でポツンと立っている彼女は、とても寂しげに見えた。私がそう思っただけかもしれないが。
「息子は? 」
「私たちの息子は、もう……」
かつて私の妻だった彼女は、そう言って空を見上げた。
彼女の目から流れる涙から目をそらすように、私も空を見上げる。息子がどこにいるのか分からないが、きっと私たちが見ている先にいるのだと思う。そう願う。
「私は間に合わなかったのか」
「間に合わなかったから、ここに息子がいないのよ」
結局、私は最後に息子に会えるチャンスを、失ってしまった。
息子はもう、飛び立ってしまったのだった。
「相変わらずね」
彼女は言った。何のことを言っているのかは分からない。思い当たることが多すぎて。私は何も変わっていないのだ。
「君は元気そうだ」
「そう見えるなら、そうね」
あまり長い時間待っていたから、何か飲みたいわ。彼女がそう言うから、私は彼女を車に乗せ、喫茶店へと向かった。
長い時間とは二時間のことなのか、それよりもっと長い十数年のことなのか、そんなことばかり考えていた私は、運転中ずっと黙ってしまっていた。
彼女も口を開かなかった。
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