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白いクジラ
小さい雲が大きい雲に飲み込まれていくのが見えた。満タンになったやかんから溢れた水が靴の中に染み込んできた。僕(佐藤健)は慌てて水道から流れる水を止めた。こんなに多い水は必要ないと思って3分の2を土に返した。
「水を汲むだけで随分と時間がかかるのね」
先に墓石に向かっていた本田萠がいった。墓石の前にはまだ初々しい百合の切り花が置いてある。今日は2年前に死んだ大久保利彦の命日だ。
「よっ」
墓石に水を注いでいると、後ろから男の声が聞こえた。墓石の前でこんなに快活な挨拶ができるのは村山薫くらいだ。昔から大きな体をしているとは感じていたが、しばらく見ないうちにひときわ大きな体つきになったような気がする。大学時代はいつもぼさぼさだった髪型もジェルのワックスでびっちりと固められ、いかにも証券マンといったような風貌をしていた。
「仕事は休みなのか?」
「そんな訳ないだろ。こっそり抜けてきた」
「土日なのに?」
「土日が休みなのはサラリーマンだけだろ」
「お前もサラリーマンだろ?」
「一緒にすんなよ。おれはプロのビジネスマンだ」
何が違うのかよくわからなかったが深くは言及しないことにした。
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