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僕は沈黙を遮ったが、萠も村山も何も返さなかったうつむいてメロンソーダにのったアイスをつつく萠をみて、失言したと後悔した。大久保は、大学4年生の6月に崖から身を投げ出して自殺した。
自殺する数日前に、大久保は僕たち3人を酒を飲もうと呼び出した。そこで大久保は、第一志望の企業の選考に落ちてしまったから慰めてくれといっていた。僕は就活の失敗による過度のストレスが大久保が自殺した原因だと思っている。萠も村山もきっとそう思っているにちがいない。数秒間の沈黙の後で、
「自殺するやつなんてバカだ。バカのすることはいくら考えても仕方ねえよ」と村山がいった。
「利彦はバカじゃないよ」と萠がいってまた数秒間沈黙が続いた。
「お前はどういう小説家目指してんの?」村山がなんとか話題を切り替えようとしていた。
村山が僕に頼ったと捉えると少しいい気分だった。
「ミステリー小説だよ」
「ミステリー?殺人事件的なやつか?」
「まあそんな感じ」
「人が死ぬお話書いてるんだね」と萠がいった。
萠の見えないところで村山が少しニヤッとしていた。萠の牙が僕に向いたからだ。
「どうして殺人事件を書きたいの?」萠が突っかかるように聞く。
「コナン・ドイルが大好きなんだ」
「コナン・ドイル?」
「シャーロック・ホームズの作者さ。大好きな人とか目標としている人に少しでも近づきたいって思うだろ?」と萠の表情を伺いながら僕はいった。
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