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深夜、静まった部屋に紙をめくる音だけが響いている。
紗弓は分厚く重い本から、挟んでおいた栞を抜き取った。
机の上に本を開いて置くと、人差し指を立てる。
「行ってきます」
一言つぶやいて文字に指を当てた。
刹那、紗弓の指先が黒く染まりはじめた。
指先から手のひら、腕、肩、首――と、黒いインクを吸収するように、紗弓の体は黒く染まっていく。
まるでインク壺だ。
鼻をつく古本の独特の匂いを嗅ぎながら目を閉じると、ぐにゃりと体が歪んだ。
どろどろに溶けた紗弓を、文字が吸いこんでいく。
気が付くと、部屋には誰もいない。
今日も紗弓は文字の海に飛び込んだ。
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